長年付き添った自転車。
社会人になってからは、ずっと僕を乗せてくれたけど、泣く泣く手放すことになった。
思えばこの自転車は、とにかく世話のかかる自転車であった。
細長いタイヤで、ちょっと段差の角で乗り上げると気づけばタイヤはパンクしている。
海岸近くで住んでいたこともあり、潮風でチェーンがすぐダメになっている。
帰ろうと椅子に跨ると、タイヤが凹んでバフンバフン言うこの自転車に何度も僕も凹まされたが、それでも、「見た目が好き」。
次の日には修理屋に向かい愛用し続けた。
なんだか小悪魔に騙されているような感じでもあった。
しかしついに手放す程の故障をする。
それがブレーキーが効かないという症状だ。
最初は左のブレーキの効きが悪かったが、最終的には両方ともダメになった。
今後のことを考えるとこれ以上修理をしてもすぐにダメになる、いい加減手放しなさい!と奥さんから戦力外通告が下されたのだ。
名残惜しい気持ちはいっぱいであったが、安全すら確保できない状態では、いくら見た目が可愛くてもこれ以上は付き合えきれない。
別れることをきめた。
家から5キロほど離れた自転車屋さんへ向かう。そこで新しい自転車を買い、この自転車を引き取ってもらうことにしたのだ。
自転車との最後の旅。
ペダルを漕ぐたびに思い出が蘇るような、ステキな旅にする予定であったが、とにかくブレーキの効きが悪い。
思い出を振り返るなんて後回し、今は生きて到着することだけだ。細心の注意を払い、Google MAPの予定到着時間より遥かに遅い時間で自転車屋さんについた。
店についてからは早い。
5分と経たず新しい自転車を値段だけで決めて、「ではこちらで預かりますね」と小悪魔がすぐに店の奥へ持って行かれた。
感傷に浸ることなく、僕は新しい自転車を持ち店を出た。
ブレーキの効きは抜群だが、フィットしない椅子にハンドル。ペダルを回すだけで他人の自転車に乗らされている気持ちだ。
小悪魔は今後、闇市にでも出荷されて他の人に乗られてしまうのだろうか?
この気持ちはなんだろう?
使いようのない小悪魔な自転車のはずなのに、あふれ出る愛に、忘れようとする気持ちのブレーキが全然効かない。
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