貸して

息子が4月から幼稚園に行き始めて、約半年。

特になんの問題もないまま平和に幼稚園ライフを過ごしていると思っていた。

 

しかし先日妻から「もうほんま無理。早く帰ってきて。」と仕事中にラインが。

 

「大丈夫?何があったん?」と送信しても返事はない。

明日やれる仕事は明日に回し帰宅した。

 

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息子「ママごめんね」

妻「・・・」

 

・・・

 

・・・

 

なんだか家は気まずいムード・・・

 

そのまま妻は2階に行き、4歳の息子と2人っきりに

 

「なんでママ怒ってんの?」

 

「・・・僕・・・、幼稚園で嫌なことしたから・・・」

と小さな声でなぜかちょっと笑いながら話す。

この微妙な感じ。息子的には反省してるんだが、普段から嫌なことはあんまり話たがらない。だけど今回は相当ママが怒っていると気づき、パパである僕に助け舟を出してほしいような…その微妙な感覚が、息子をよくわからない笑顔の表情にさせている。

 

そんな中、妻が2階から降りてくると、息子はすぐに反応しそっと妻に近づき

「ママごめんね」

 

「・・・もう謝らなくていいよ。何回注意しても変わらないじゃん」

と息子を諭した。

 

「・・・パパ、ママ怒ってる・・・」

とまた小さな声で気まずそうに笑いながらこちらにくる。

 

「こういう時は笑ったらダメだよ。反省しないと」

となぜ怒っているのかよくわからないけど息子を注意した。

 

僕に妻は

「話したいからYOUTUBE見せといて」

と真剣な話モードになった。

 

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妻と真剣な話をする時は、息子にYOUTUBEを見せる。

というのも2人で話すと息子もその話に入ってきて「僕は!僕の話して!」と真剣な話ができないからだ。

 

「どうもノーズです!本日のレゴは…」

と最近息子がハマっているレゴユーチューバーの声が響くと

 

「いや、普通に音うるさいから」

 

スマホの音量に気が触れるところまで妻は怒っていた。

 

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今日の幼稚園の帰り、お友達がボールを持っていて、そのボールを息子が勝手に取った。

それを妻が注意すると息子が癇癪を起こし、取ったボールをそのまま友達の方に投げる。

その後も全く言うことをきかなくなったらしい。地面に寝転んで大声で泣いて、抱き抱えようとしたら大きく反抗する。そんな息子につくづく妻は疲れ果ててしまったのだ。

 

僕の息子は最近、怒るとおもちゃを投げる。

これは何度注意してもやめない。

機嫌が悪くなるとモノに当たってしまうのだ。

 

そのことを他人に相談すると・・・

 

「いや、そんなことよくあるから」

「それは親の愛情不足の表れやな」

「うまく伝えられへんから物に当たるんやで」

「注意の仕方がよくないんだよ」

と十人十色の答えが返ってくる。

みんな通る道なんだろうけど、確立した答えはまだ出ていないようだ。

 

というか「AだからBなんだ」と言うほど人間って簡単な仕組みで動いていないような気もする。息子が笑いながら「ママ怒っている」という表情からも、複雑で自分でも表現しずらい感覚で息子も生きている。

 

「もうどうしたらいいか私わからん…」

 

と直にそんな得体の知れない生物(息子)と向き合わないといけない妻。

そりゃあ頭が抱えるのも納得だ。

 

「先生に相談したら・・・」

と喉元まで出てきた言葉を一旦ゴックリと飲み込んだ

何にも考えずに思いつきのままアドバイスをしそうになったが・・・

 

「(いや、待てよ。今ここで幼稚園の先生に相談したら?って言ったら、それはそれで父親として、どうなんだ?ってか「なんでお前は他人事やねん!」ってとらえかねなくないか?)」

と息子の件で悩んでいる妻なのに僕は僕で、

妻を怒らせないように必死で自分の保身的思考を巡らせていた。

 

「なんでさっきからなんも言わんの?聞いてる?」

 

「あ、聞いてるよ」

 

「ここのパーツは赤色のレゴで装飾して・・・」

 

ひとしきり話し終えた部屋では、息子が見る音量が小さくなったレゴユーチューバーの声だけが響いていた。

「じゃあどうしたらいい?」という回答を僕らは出せずにいた。

 

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そんな事件があった数日後、妻からラインでなく電話がかかってきた

 

「またボール投げた・・・私もう行きたくない・・・」

 

電話の声からも妻は弱り切っているのがわかる。

先日と全く同じ案件で息子はお友達のボールを奪い、投げつけたのだ。

 

「なぁもうどうしたらええの?」

 

「・・・」

 

「聞いてる!?」

 

 

「え、あ、聞いてる・・・」

 

どうしたらいい?そんなの僕も同じだ

どうしたらいい?

 

全く思いつかないまま・・・

ただ素朴な疑問をそのまま妻に聞いた・・・

 

「なんでお友達のボール取るんかな?」

 

「え・・・そりゃあボールで遊びたいからやろ・・・」

 

「でも・・・ボールなんてうちにもあるやん」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・“一緒に遊びたい“んかな?」

 

僕と妻は、そのボールで“息子は友達と一緒に遊びたい”ということに気づいた。

だけど一緒にどう遊んでいいのかもわからない。

うまくまだ自分の気持ちを伝えれない息子がいる。

 

そこに妻が「ボールを取ったらダメでしょ!」と注意されても

息子としてもどうしたらいいかわからず怒って泣いてしまっていたのだ。

 

僕らはその夜、息子に「お友達のボールで遊びたいなら“遊ぼう”とか“貸して”って言うんだよ」とアドバイスをした。

「もう幼稚園の話はしないで!レゴしよ!」と話を変えられた。

わかってるのかどうかわからないけど・・・

これ以上息子を責めるのも違うような気がした。

きっと息子は息子で戦っている。

 

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翌日。

仕事から帰ると妻が

 

「今日、お友達のボールを見て「貸して」って言ったよ」

と涙ながらに話してきた。

 

まだまだ誰でもできるような小さな一歩だけど

息子にとってはとっても大きな一歩。

 

「貸してって言えたの!?偉いね!」と息子を褒めると

「・・・えらいってもっと言って!」とおねだりされたので

 

その後10回ぐらい「偉い!」って言った。

 

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