失って初めてその事の意味を再認識することがある。
コロナによりあらゆる機会が失った。
僕にとってその失った機会の1つが「居酒屋」だ。
日常の延長上、とても身近な所にあった居酒屋ではあるが、コロナにより避けて通るようになり、どこか居酒屋が非現実的なものになっていた。
そんな距離を置いていた居酒屋。
なかなかいく機会がなかったが、以前から上司と約束をしており、久しぶりに飲みにいく事になった。
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居酒屋へ入ると、小さな変化を所々に感じる。
まずは入り口には体温計を測る機械。
ただコロナ対策を形だけしているのか?その機械で測られることなく入店。
「体温を測らなくて良いですか?」と店員に聞くと、「大丈夫ですよ!」と笑顔で答えられる。
いやいや、そこはちゃんとしてくれないと、逆にみんな測ってないと思えて怖いんだけど…。
他に変化したものはタバコだ。
酒と切っても切り離せなかったタバコは、一切存在しなくなっていた。店内別室に喫煙所が設けられて、いよいよ居酒屋の席からも喫煙者を排除し始めているようだ。
そして飲みにきている人。
飲みに来ているのは、サラリーマンよりカップルや友人同士が多く、僕らのように社会人である上司部下の関係で飲みに来ている人は珍しい。
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変わりつつある居酒屋で、 上司は会社の新人について話す。
「新人はかわいそうだよ。時期が時期だけに、こうやって居酒屋に来てストレスの解消ができないからな。やっぱり話すって大事だよ。」
上司の頭の中には、まだ距離を置いても居酒屋が放つ可能性を感じている。
普段言えないことも、居酒屋だからこそ言えて許される、居酒屋とはそんな魔力を昔から持っていると話す。
それでもアルコールが回り、顔を真っ赤にして酔っぱらい語る上司の姿を見ると何とも言えない感覚になる。
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素直な気持ちを話せる魔法の場のように、上司は居酒屋の存在を話すが、その魔法を信じてこの場に飲んでいる社会人は周りを見渡してもいない。
周りのお客さんはカップルや友人…。
みんな気の知れた仲だからこそ貴重な時間を使い語り合っているのだ。
どこか時代に取り残されたように、この居酒屋でネクタイを締めて飲み合う社会人のぼくたち。
酒がなければ…。
居酒屋がなければ…。
素直に話すこともできない。
その奇妙な関係を保ちながら、僕らはまだ居酒屋の魔力を信じている。
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