胸にひそむ皆の父

昨日飲み会が開かれ、上司2名と後輩1名で中華料理の円卓を囲んだ。

お酒が進むごとにみんな不幸な生い立ちを語り始める。

 

「俺は大学代は自分で稼いで払った、父親は払うような人ではなかった…」

 

「私の父親はよく酔って帰ってきて母親を怒鳴り散らしていた…」

 

「実は僕の父親も…」

 

みんな父親は、当時やばかったという話に火が点いたのか会話が進むごとにどんどん「父親悪かったインフレ」が上がっていく。

 

「俺の父親なんて髪を引っ張りまわして暴れていて…」

 

「僕の父親は離婚しても接触禁止って裁判所が出るくらい酒乱で…」

 

また一つ一つのエピソードが10分ぐらいあるから、円卓が次第にステージのような感覚になる。みんな我が我がと逆境の歴史を持つ語り部としてこの壇上にあがれば鬼のような父親を語る。僕はそんなエピソードを持ち合わせていないから、ひょうきんな司会者として中華円卓の場をつないでいく。

 

ドグマ

『いやはや、女性のスカートと上司の話は短い方が好まれると言いますが、そこに父親の気まで短いとなると世にも奇天烈なお話が生まれるわけですな。さて続きましては神妙な面持ちでビールを持っておられる彼。次はどんなエピソードを語ってくれるのか?』

 

後輩

「僕が子供の頃、父親はよく怒っていました。あの時は…」

 

エピソードがインフレしすぎて、「それホント?」という都市伝説みたいなやばい父親話もあったが、それだけみんな闇を抱えているということだ。

普段はまずそんな話をしないし出てこない。しかしお酒によって緊張感が解けて、心の奥に潜んでいるトラウマに近い体験を思い出し中華円卓に引っ張り出しては並べていく。

 

上司や部下という関係、年齢が上下関係なく、自分たちがみた人間を語っていく。

 

まるで昨日体験したかのように何十年も前の過去を目を丸くして、手を上げて表現していく。

 

俺のやばい歴史。

 

その体験者たちが次々にとんでもエピソードを語る、まぁそれだけの会といったらそれだけの会だ。でもそれを童心に戻ったかのように語るのだ。

 

みんなかっこいいネクタイを巻いて、家族を持ち、年齢を重ねていても心の奥底は全く関係ない。あの恐怖の父親がいつまでもこびりついている。

なんだかその人間臭い話が面白かった。職場での仕事話になるとどうも本心でないからかあんまり入ってこないのだが、今日は響く響く。

 

恐怖の父親の前で自分がどういう振る舞いをしたのか?

そこにその人の人間性が出ているのだ。

 

そんな話をうんうんと頷いていたら、

 

「それを乗り越えたからこそ思う。今の若い奴は我慢が足りない!仕事というのはな…!」

 

といつもの響かない話になり始めた。

その先はビールをグイッと飲んで記憶にない。

 

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