人生で初めて坊主になってみた

坊主にしてみたいという感覚がここ最近のぼくの欲望を強く刺激していた。

 

シャンプーから髪を乾かすまでの快適な時間。

寝癖もなく、ランニングで頭から水をかける感覚。

髪のセットもなく、そしてとにかくシンプルイズベストの追求。

風が吹いて汗を吹き飛ばすだけだ、前髪を気にしなくて良い。

 

なんだろう?その快感自体妄想なんですが一度頭に焼き付くと、ランニングする度に、朝に髪をセットする度に、鏡を見る度に思うのだ。

 

坊主になりたい。

 

でも坊主にするという行為の恐ろしさは半端ない。

僕の偏見だが坊主というのは、野球部を意味している。

 

ショートがどこのポジションを意味しているかも知らない僕にとってもはや坊主は別の人種であり、僕の常識の中ではない存在であった。

 

失敗したら修復は不可能だ。

そして無駄に人の目をひくのも億劫だ。

 

「あいつ、浮気でもして反省しているのか?」

「仕事で何かやらかしたんだろ?」

「出家?」

 

 

バリカンを入れる前は何度も迷った。

髪の毛があることで、髪の毛を染めることもできたし、パーマを当てたり、ワックスで前髪をいじったり、髪の毛をオシャレに弄ぶ青春があるのだ。

 

「髪似合ってる!」

「かっこよくなった!」

 

そんな声を聞くことがそんなにあったわけではないが、やはり髪というのは僕を造形する一つであり、また顔というのは人の部位の中でも、名刺的存在だ。

必然的に顔を飾る髪のデザインはそれだけ相手への印象を左右するのである。

 

とはいっても・・・

それでも・・・!

坊主になりたいのだ。

 

人生一度しかない。

坊主という感覚をまだ髪のある内に味わってみたい。

そしてついにバリカンの電源を入れた。

 

 

 

 

ウィーーーン

 

 

 

 

5mmアッタチメントをつけたバリカンが僕の頭部・センターを走る。

 

 

 

 

バリバリバリ

 

 

ヘアースタイルのセンターには刈り取られたバリカン跡が、しっかり残っている。

 

 

「もう取り返しがつかない…」

 

 

 

頭部センターの髪がなくなり左右に伸びる髪をみると無人島を彷彿させる。

 

 

 

 

 

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人間迷いがあるのなら、取り返しのつかない状況に追い込む方がいいかもしれない。

逃げ道があるとあーだこーだ悩んでしまう。

選択に人は苦悩するのだろう。

 

もういっそうシンプルな道だけ用意すればいい。

僕には左右の髪を切り落とすしか道がないのだ。

それしかないならそれしかないのだ。

僕はもう坊主にするしかないのだ。

 

 

 

・・・

 

 

 

・・・

 

 

 

そして僕は坊主になった。

 

 

鏡に映る坊主頭の僕。

 

2020年というのにどこか鏡の向こうの僕は古さを感じた。

 

 

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坊主になり、さっそくシャンプーをした。

 

 

シャンプーの液を頭につけるも、つけすぎのためシャンプー液の半分以上が坊主頭からはみ出てしまう。

 

シャンプーを終え、頭を払うと霧吹きを払ったような小さなダイヤモンドダストが僕の頭からこの坊主頭を歓迎した。

 

 

 

 ソファーに持たれると後頭部からカサッとブラシを摩った音がする。

 

鏡を見ると坊主頭でなく生え際を見る。

 

車のガラスに映る坊主頭

 

 

 

これからどんな生活が待ち受けるのであろうか。

まだまだ坊主の世界は始まったばかりだ。

 

 

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